生命保険の解約返戻金は死んだら戻ってこない!の本当の意味

独りぼっち

掛捨て型の保険(定期保険)と積立て型の保険(終身保険)を比較した時に、

資金余力があるなら積立て型の方がお得、保険料は高くなるが最終的には戻ってくるので」

と単純に考えている人は、当たり前の視点が抜けている可能性があります。

「解約返戻金は解約しなければ戻ってこない」ということです。

保険を解約しないで死んだ場合、死亡保険金はもちろんもらえますが、解約返戻金は死んだらもらえません。

「お金が戻ってくる」というフレーズだけに注目してしまって、おかしな選択をする人が少しでも減るように、「解約返戻金は死んだら戻ってこない」の本当の意味について書いておきます。

保険の仕組み

保険とはシステムのことです、まずはそれについて簡単に説明します。

保険の相互扶助のシステム

もともとの保険の仕組みはこうです↓
自分、自社では対応できない金銭的リスクに、相互扶助で対応するというのが保険という仕組みです。

・保険事故の発生確率・・・1件/1,000件(0.1%)

・保険事故の際に必要な保障・・・1億円

・1,000件で事故リスクを共有する・・・1億円/1,000件=10万円

・1件ごとに10万円の保険料を支払う・・・総額1億円

この保険の仕組みがあって、自分が事故を起こしてしまった場合↓

保険金1億円をもらう。

内訳
・自分が払った10万円
・他の人が払った9,990万円(10万円×999件)

この間をとりまとめてくれるのが保険会社です。
保険はリスクヘッジの手段です。

保険というシステムが有意義に機能するリスクの種類は、「発生の確率が低く、かつ発生した場合に自分1人では対応できないほどの金銭的リスク」です。

生命保険、火災保険、自動車保険、など保険事故の種類は違いますが考え方は同じですね。

これに当てはまらないリスクに対しては保険では対応できません、または保険という仕組みは合いません。

地震保険で震災リスクをヘッジできないのはそのせいです。発生の確率が高い(発生件数が多い)から保険というシステムでは対応できません。

生命保険(死亡保険)が自動車保険、火災保険と決定的に違う点

どの保険も次のような金銭的リスクを回避するために保険というシステムを利用します。

・生命保険は、死んだ後の生活を金銭的に守るためのリスクヘッジで

・火災保険は、火災による多額の損害、補償金のリスクヘッジで

・自動車保険は、自動車事故による多額の補償金のリスクヘッジで

火災保険と自動車保険は、事故が起きたときの金銭的リスクの大きさがずっと変わりません。

しかし、生命保険は死んだ後の生活に必要な金額(リスク)が時間とともに減っていきます。これが決定的な違いです。

そのため保険期間を限定した定期保険があります。
リスクが減らなければ、常に死ぬまで保障(終身保険)のはずです。
火災保険、自動車保険の保険料が基本的に変わらないのは、リスク量がずっと変わらないからです。

 

これが保険の本来のシステムです。

この仕組みに当てはまらない場合は貯蓄か投資か他の何かですね。
単なる貯蓄なら問題ないですが、投資なら相応のリスクがあるということです。

ここからが本題です。

掛捨て保険と積立て保険を比べてみる

あなたは次の2つの保険を比較してどう考えますか?
どちらがお得と考えますか?
(保険で「お得」という言葉は心情的にどうかと思いますが、比較する上であえて使用しています)

【前提】
死んだときの死亡保障1,000万円が必要な35歳
(単純比較するために収入保障保険など他のことは考えないでください)

  掛捨て保険A(定期保険) 積立て保険B(終身保険)
死亡保険金 1,000万円 1,000万円
保険期間 65歳まで保障(定期) 死ぬまで保障(終身)
保険料の払込期間 65歳まで(30年) 65歳まで(30年)
月額保険料 3,500円 20,000円
保険料の支払総額 126万円 720万円
解約返戻金(65歳時点) 800万円(110%)
65歳で解約した場合の資金増減
(解約返戻金-保険料総額)
△126万円 +80万円
(800万△720万)
補足 解約返戻金は65歳以降も少しずつ増えていき、80歳時点では900万円くらいまで増える

 

この2つの保険を比較して見て、次のような考え方をした人もいると思います。

1)積立て保険Bは、死ぬまで保障してくれるので、掛捨て保険A(65歳まで保障)より安心

2)積立て保険Bは、保険料総額は高いが65歳になれば払った金額より多くなって戻ってくるのでお得、その後も増えていくしお得

3)積立て保険Bは、保険料は高いが、死亡したときにもらえる保険金も定期保険Aと同じなのでお得

⇒【結論】
月額保険料は高いが、それを負担できる余力があるなら積立て保険Bの方がお得。お金を持っている人なら積立て保険Bの方がお得

こう考えた人は、「当たり前の視点」が抜けている可能性があるので、この後の話を必ず読んで当たり前の視点を取り戻してください。

積立て保険(終身保険)に対する2つの誤解

上で書いた終身保険(積立て保険)に対する3つの考え方には、明らかにおかしな点が2つあります。

1)死ぬまで保障なので安心

2)65歳になれば払った金額より多くなって戻る

3)もらえる保険金も掛捨て保険の場合と同じなのでお得

分かりますか?
2つの誤解について以下で説明していきます。

その1)「死ぬまで保障」と「貯蓄」は両立できない

この話は、「解約返戻金は解約しなければ戻ってこない」という当たり前の話を冷静に考えれば分かります。

終身保険は保険期間がありません。
死ぬまで保障してくれるので、死んだら必ず死亡保険金がもらえます、死ぬまで解約しなければ

また、終身保険を選ぶ理由に老後資金の「貯蓄」という理由があります。保障を受けながら老後資金を貯金する、という選び方ですね。これはこれで良いですね。
先ほどの例なら、65歳の時点で払った保険料より増えて返ってきます、解約すれば。

このように2つの目的は両立不可能です。
「終身保障」を受けるためには死ぬまで解約してはいけません。
「貯蓄した老後資金」を使うためには、解約しなければいけません。

終身保険を検討する際は、「貯蓄」と「死ぬまで保障」のどちらかを切り捨てなければいけません。

1)死ぬまで保障なので安心
2)65歳になれば払った金額より多くなって戻る

という考え方は両立しません。どちらか1つです。

その2)同じ死亡保険金をもらっても積立て保険(終身保険)の方が損

積立て保険だけど、死んだら掛捨て、という真実

3)もらえる保険金も掛捨て保険の場合と同じなのでお得

この考え方が明らかにおかしいということも、「解約返戻金は解約しなければ戻ってこない」、「解約返戻金は死んだら戻ってこない」という話を理解していれば分かります。

死んだら積立金(解約返戻金)はなくなります。
つまり死んだら掛捨て保険と同じ仕組みになります

分かりやすくするために、先ほどの比較表に情報を足しておきます。
もし60歳で死亡してしまったら、お金の増減(収支)はいくらでしょうか?

  掛捨て保険A(定期保険) 積立て保険B(終身保険)
死亡保険金 1,000万円 1,000万円
60歳時点の支払い保険料の総額(保険会社に預けている金額 100万円※ 600万円
収支(お金の増減) 900万円 400万円
※本当は105万円ですが、わかりやすくするために端数省略。

死亡の時点で解約返戻金はなくなるので、積立という概念はなくなります。どちらも掛捨てです。
先ほどの保険という相互扶助システムを思い出してください。

保険期間中に死亡した場合、どちらも口座に1,000万円の死亡保険金が入ります。
でも、保険というシステムで助けてもらったのは、支払った保険料と死亡保険金の差額です。
この差額が保障です。

当たり前の話ですが、助けてもらった分しかお金は増えません。増えるお金と死亡保険金は違います

保険期間が長期になるのでイメージがつきにくいですが、すべての出来事が1年で起きたと思って下の表を見てください。

【2つの保険の収支差額(60歳で死亡した場合)】

  保険料の支払
事故発生
死亡保険金
増えたお金
(②-①)
掛捨て保険A
(定期保険)
△100万円 1,000万円 900万円
積立て保険B
(終身保険)
△600万円 1,000万円 400万円
2つの保険の差額 500万円 同じ 掛捨ての方が500万円多い

このように保険金は1,000万円ですが、積立て保険は実際には400万円しか増えません。
掛捨て保険で増えたお金900万円とは500万円も差がついています。

これをグラフで見るとこうなります。家計をイメージしてみてください。

掛捨て保険と積立て保険の比較

なぜこんなに差がつくのでしょうか?

こんなに差がつくのは、死んだら積立金が掛捨てになっているからです。

積立て保険は掛捨て保険より死亡保障が少ない

そもそも必要な死亡保障1000万円は、この積立て保険(実質保障400万円)で足りるのでしょうか?
足りているんだとしたら、そもそも貯金でも対応可能なのでは?となるかもしれません。

保険期間中で比較するなら、死亡保障という意味では積立保険はとにかく損(掛捨て保険と比べると)です。

それならば、必要死亡保障1,000万円に合わせて、「増えるお金1,000万円」となるようにする。そのために、死亡保険金の設定金額を上げればどうか?という考えもありそうですね。

では、上の例で死亡保険金を2,000万円にした場合どうなるか?

  積立て保険C(終身保険)
死亡保険金 2,000万円
保険期間 死ぬまで保障(終身)
保険料の払込期間 65歳まで(30年)
月額保険料 40,000円
保険料の支払総額 1,450万円
解約返戻金(65歳時点) 1,600万円(110%)
60歳時点の支払い保険料の総額 1,200万円

⇒60歳の時点で支払い保険料が1,200万円になります(保険商品にもよるでしょうが)。。
この保険料を払えるなら保障はいらないですね、必要保障の1,000万円超えてますから。

しかも、死亡保険金を2,000万円に上げたとしても、仮に60歳で死亡した場合の純増額は800万円(2,000万円△1,200万円)で、死亡保険金1,000万円の掛捨て保険の純増額900万円より少ないです。

【死亡保険金1000万(掛捨て)と死亡保険金2000万(積立て)の比較】
(60歳で死亡した場合)

  保険料の支払
事故発生
死亡保険金
増えたお金
(②-①)
掛捨て保険A
(定期保険)
△100万円 1,000万円 900万円
積立て保険C
(終身保険)
△1,200万円 2,000万円 800万円
2つの保険の差額 1,100万円 1,000万円 掛捨ての方が100万円多い

これをグラフで見るとこうなります。

掛捨て保険と積立て保険の比較②

ただし、積立型の保険でも死亡保険金が掛捨て並みに多い、という場合もあるでしょう。

その場合でも、

・解約返戻金が支払保険料総額を下回っていませんか?

・掛捨ての特約ついていませんか?

・運用次第で解約返戻金が支払保険料よりずっと下回りませんか?

 

などなど、冷静にきちんと確認しましょう。

まとめ

解約返戻金は死んだら戻りません。

なぜ積立て型の保険はお金が増えるのか?の1つの理由です。
保険会社が大量にお金を預かって、運用で利益があがるから、という話だけではありません。

30年で10%増だけでも、お金が増えるということは、それなりのリスクがあるんです。積立て型の保険でも死んだら掛捨てです。

【最初に書いた保険比較の結論】

前提として、

・積立て型の死亡保険金1,000万円(実質400万円の保障)で保障が足りている

・保険料総額720万円を支払う資金が有り余っている

という状態であれば、次の結論になります。

・65歳まで(定期保険の保険期間中)に死なないなら積立て型

・65歳までに死ぬなら掛捨て型

 

死ぬ可能性のリスクに対して保険をかけるためには・・・

どちらでしょう?
「お金が戻る」「貯金」というフレーズに注目しすぎて、おかしな選択をしないように気をつけましょう。

自分、自社で対応できない金銭的リスクがある場合、保険は必要です。

ただし、保険はシンプルに考えましょう。

「払う保険料」と「受取る保険金」の差額が増えるお金(保障)です。

ABOUTこの記事をかいた人

1982年生まれ、千葉県出身。大学卒業後、外資系税理士法人・財務コンサルティング会社などで10年間勤務の後、独立。現在は中小企業の税務顧問などをしながら、スタートアップのCFO、創業100年企業の財務戦略を支援したりと税理士業以外での活動フィールドを拡大中。好きな言葉:一寸先は光。
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