リクルートの「銀行業」参入はあるのか?3つの視点から考える

リクルートカード

1988年に発覚したリクルート事件、政治家や官僚まで逮捕された贈収賄事件として歴史に刻まれています。

その後一度はダイエーグループの傘下に入るも、抜群の人材を高速回転で入れ替えながら、新規事業を輩出し続け、ひたすら業績を伸ばしていったリクルート。

そして過去の記憶との決別を果たしたのが2014年、超大手の非上場企業として有名だったリクルートが東証一部に上場しました、上場とは信頼の証です。上場後は潤沢な資金を元手にM&Aを中心としたグローバル事業展開を加速させています。

そのリクルートが「銀行業へ参入」する可能性がある、というのが今回の内容です。 銀行業参入はリクルートにとっては悲願のはずです。

そもそもリクルートとは?

リクルートは何屋か?という様な質問はこの時代には無意味かもしれませんが、現状把握のために確認しておきます。 その前に全体の財務指標を簡単に見ておきます。

リクルートの財務指標

・売上高は上場前の2013年に1兆円を突破。

・EBITDA(営業利益+減価償却費+のれん償却費)も直近決算で2,000億円付近まできています。

リクルートの売上高とEBITDA

※リクルートannualレポート「Business Overview 2015」p.21

・2005年当時に約4,000億円だった売上は、10年で3倍超の約1.3兆円まで増加。

リクルートホールディングス_業績推移

就活総研より

・2015年12月末(直近3Q末)時点のBSも盤石。

現預金 約2,600億円(注)
借入金 約180億円
総資産 1.1兆円
純資産 約7,700億円

(注)毎年4Q末の現預金が一番多いので、期末は3,000億円を超えるかと

このように、リクルート事件の暗いイメージなど微塵も感じさせない超優良企業になっています。
参考までに海外売上高の占める割合も見ておきます。

リクルートの海外売上高構成比

※リクルートannualレポート「Business Overview 2015」p.20

次にリクルートの事業内容を見てみます。

リクルートの事業内容

リクルートの事業の柱は2本あります。
1)人材派遣業
2)メディア(広告)事業

さらに、メディア事業の柱も2本あります。
①人材メディア事業
②販促メディア事業

販促メディア、人材メディア、人材派遣の3本のサービスラインを表で見てみます。

リクルートの主要事業セグメント一覧

※リクルート2016年3月期 第3四半期 決算説明資料p.26

40代くらいまでの世代なら、誰もが一度はどれかのサービスを使ったことがあるのではないでしょうか?
新規事業を輩出し続ける企業というイメージ通りで、間口の広さが際立ちます。

セグメントごとの財務指標

次に事業ごとの財務指標を見てみます。

リクルートの事業セグメント別売上、EBITDA

※リクルートannualレポート「Business Overview 2015」p.21

売上高で見ると、メディア事業の合計と人材派遣業が同じくらいですが、利益で見るとメディア事業の方が数倍多いです。

人材派遣事業は、2008年に当時リクルートの人材派遣売上の倍以上だった業界最大手スタッフサービスを買収して一気に業界トップに躍進し、その後も順調に推移しています。

次は、売上に占めるセグメント別売上の構成比です。

 

リクルートの事業セグメント別売上、EBITDA

※リクルート2015年3月期 通期 決算説明資料p.5

売上高1.3兆円の内訳は、メディア事業が5割、人材派遣業が5割程度、
EBITDAの内訳は、メディア事業が8割、人材派遣業が2割程度です。

リクルートの業界でのプレゼンスも見ておきます。

リクルートの事業セグメント別業界プレゼンス

※リクルートannualレポート「Business Overview 2015」p.6

SUUMO、ゼクシィ、カーセンサー、じゃらん、Hot pepper(ビューティー)、リクナビ、タウンワークなど、どれをとっても強力ですね。

最後に事業別の競合サービスも見ておきます。
販促メディアの日常消費フィールドの競合が強力ですね、サービス単体であれば。

リクルートの事業セグメント別競合

※リクルートannualレポート「Business Overview 2015」p.4

リクルートの新規事業

新規事業を見る前に、まずはリクルートの創業から今までの既存サービスの歴史を見て全体のイメージしておきます。

リクルートの事業の歴史

※リクルートannualレポート「Business Overview 2015」p.3

リクルートは、2015年3月期の決算発表で、国内事業の持続的な成⻑のための重点戦略として、ITを活⽤した新たな成⻑分野(新規事業)の創出を掲げ、次の3つの事業を提示しています。

1)中⼩企業向け業務⽀援分野
2)教育産業
3)ヘルスケア産業

今回は3)の説明は省略します。

新規事業1)中⼩企業向け業務⽀援分野

お店でタブレット端末で会計をしたことありませんか?それがリクルートが提供する「AirREGI(Airレジ)」というサービスです(競合も2社あります)。

▼Airレジ

Airレジ

「AirREGI(Airレジ)」とは?

・小売業、飲食業、美容業、その他のサービス業に必須のレジ業務がスマホやタブレットで行える無料のPOSレジアプリ
タブレットなどにアプリをインストールするだけで、簡単にPOSレジを導入できる
従来のレジシステムの様な高額な投資も不要で、初期投資を大幅に抑えることが可能
・Airレジと社内外多数のサービスを連携させて価値向上している
・連携サービス以外でも「AirMarket」というプラットフォームを通じて店舗運営に貢献するサービスを提供
・サービスリリースから3年弱で22万アカウントが登録
・AirREGIの名のとおり、海外展開も開始している

補足:アカウント登録は誰でもできるので、実際のユーザー数(事業所数)は22万というアカウント数よりかはずっと少ないはずです。市場規模から考えてもまだまだこれからの事業ですね。

具体的には以下の様な連携サービス、非連携周辺サービスを提供しています。

受発注管理
電子請求書
受付け管理、予約管理、顧客管理
クレジットカード決済
勤怠管理、シフト管理
会計システム
領収書などの経費集計
販促、求人
その他
国内事業所数と中小企業数

※リクルート2015年3月期 通期 決算説明資料p.31

このPOSレジアプリ市場では、他に「スマレジ」、「ユビレジ」という競合がいます。

今の時点では、「スマレジ」が一歩リードしている感があります。POSレジとしての性能や連携サービスの多さも今は「スマレジ」が一番でしょう。「スマレジ」はスマレジ・ペイメントという決済サービスも提供しつつ、楽天スマートペイなどの他社サービスとも連携しています。

▼スマレジ

スマレジ

少し前まで名前をよく聞いた「ユビレジ」は、今は大分下降線に入っています。

リクルートが提供する「Airレジ(エアレジ)」は、一番の後発というのもあってこれからに期待です。しかし、さすがのリクルートが提供するサービスだけあって、導火線を持っています。

▼Airレジの導火線

モバイル決済をiPadやiPhoneでカンタン無料導入。中国最大級の決済アプリAlipay(アリペイ)に対応。

4億人以上の会員を持つ、中国最大級の決済アプリ「Alipay(アリペイ)」に対応! 近年の訪日中国人の増加にともなうインバウンド需要が高まるなかで、コンタクトレス決済/モバイル決済のニーズも増加の一途にあります。

モバイル決済 for Airレジ

中国で最もユーザー数の多いオンライン決済サービスである「Alipay国際決済」を用いた対面決済が、日本で初めて「Airレジ」加盟店において可能になります。Alipayアプリを利用するユーザーは、Alipay国際決済を導入した「Airレジ」加盟店で、QRコードを提示するだけで支払いを完了できます。

ベリトランスプレスリリース

アリババグループが展開するAlipayだけでなく、LINE Payとの連携も決まっていて、2016年はAirレジも一気に普及しそうです。

「スマレジ」と「Airレジ」はどちらもPOSレジアプリですが、若干カラーが違います。 「スマレジ」はバックオフィス特化、「Airレジ」はバックオフィス+メディア、というカラーです。

今までは、POSレジアプリの利便性や可能性が弱かった&認知されていなかった分、レジ周辺だけに特化していた「スマレジ」がシェアをとっていた気がします。

今後ある程度POSレジアプリが普及すると、リクルートが得意なメディア領域の良さも強く出せるはずなので、「Airレジ」も一気に加速すると思います。

また、消費税率が上がると既存のレジシステムは買い替えなどが必要となるため、既存のレジシステム⇒POSレジアプリ、という流れを加速させるはずです。 そのうえ、POSレジアプリへの買い替えでも補助金が出る予定にもなっています。

従来型レジシステムのシェアを持つ東芝テックなどにとっては、今後厳しい立場になるでしょう。

続いて教育分野です。

 新規事業2)教育産業分野

所得・地域の問題から予備校に通いたくても通えない⼈が⼀定数存在する事実。
収入や地域の格差を超えて、すべての人に学習機会を提供したい。

そんな問題を解決するために生み出したサービスが、安価で良質なオンライン学習コンテンツを提供するスタディサプリ(旧受験サプリ)」というサービスです。

スタディサプリ

「スタディサプリ(旧受験サプリ)」とは?

・月980円で約3,000講義が受講可能
・大学の過去問なども収録
・講義テキストもPDFで無料ダウンロード可能
・塾や予備校より圧倒的にお得
・大学受験生の2人に1人が利用していると言われている

スタディサプリ

競合してしまう予備校や塾は厳しいですね。 私の学生時代には考えられなかったようなサービスです。

補足ですが、この関連サービスで「資格サプリ」というサービスもあります。

▼資格サプリ

資格サプリ

今は日商簿記(2級・3級)とTOEIC、介護(ケアマネジャー、介護福祉士)しかありませんが、今後コンテンツが増えていき、資格学校と競合する部分が増えるでしょう。

ここまでがリクルートの事業内容と財務内容の説明です。
リクルートは間口の広い事業を展開しているうえに、財務内容も盤石だとわかりますね。

この先が、本題「リクルートの銀行業参入の可能性」についてです。

リクルートカード2

そもそも銀行業を始めるには??

どんな銀行があるのか?

民間銀行のうち従来の有人店舗型の銀行については省略し、2000年以降に設立されたネット銀行などにについて少しだけ説明します。

これまで、コンビニ等の店舗網にATMを設置し主に決済サービスの提供を行う銀行、インターネット上でのみサービスの提供を行う銀行、主として中小企業向けミドルリスク・ミドルリターンの融資を行う銀行、といった新たな形態の銀行や特色ある銀行が設立されている。また、株主構成面では、事業会社等の異業種による銀行業への参入もみられるところである。

金融庁HP :銀行業への新規参入の取扱いより

異業種の銀行業参入で有名どころは、
・ネット銀行ではダントツの口座数をもつ楽天銀行
・日本中にあるセブンイレブンのATMをフル活用したビジネスモデルのセブン銀行
・実店舗イオンと連携したビジネスモデルのイオン銀行
・投資、貯蓄のカラーが強いが、ソニーブランドの信頼性から安定した高収益のソニー銀行

この中でもセブン銀行は住宅ローンなどのサービスは提供しておらず、少額のカードローンしか取扱っていません。金融庁がいう「コンビニ等の店舗網にATMを設置し主に決済サービスの提供を行う銀行」とはセブン銀行のことですね。

逆にコンビニATMの利便性を活用した「売上金入金サービス」を法人向けにアピールしています。

目的別ローン、フリーローンといわれる教育・ブライダル・旅行・自動車・その他高額出費に対するローン商品についても、セブン銀行は取扱っておりません。ソニー銀行も目的別ローンは現在新規受付けを中止しています(2016/4/26現在)。

このように、特にネット系銀行については、業務を制限したりして、それぞれのビジネスモデルに合わせた展開をしています。

どうしたら銀行業に参入できるのか?

資本金が最低10億円必要
内閣総理大臣の認可が必要
などの形式基準もありますが、一番重要なものは、「信頼」です。

ただし、信頼といっても、2種類あります。
これについて詳しく知りたい方は金融庁HP(銀行業への新規参入の取扱い)と銀行法を見てください。

1)金銭的な信頼:
普通の事業とは違って、儲からなかったのでやめます、とはいきません、銀行は。
そのために、本業とのシナジー効果も含めて収益がきちんと見込めるか、不足の事態が起きた時の資金フォローは見込めるか、市場環境が悪化した場合でも一定の収益が見込めるか、など。

また、事業親会社等の経営悪化リスクを遮断できるか?なども重要なポイントです。
事業親会社等の破綻等に伴い、子会社である銀行が共倒れしないように、リスクをコントロールできる仕組みになっているか?も審査では重要です。

2)言葉どおりの信頼:
銀行の業務を的確、公正かつ効率的に遂行することができるかどうか。
システムセキュリティ、不正防止、疑わしい取引の届出義務、子銀行の事業親会社等からの独立性確保の観点(銀行経営の独立性)など

なお、これらの信頼は銀行本体だけでなく、株主となる事業親会社等でも同じく必要とされます。

このように銀行業に参入するには、確固たる財務基盤と信頼が必要になります。
セブン、楽天、イオン、ソニー、どれも財務基盤と信頼がありますね、さらに銀行業での収益性も見込めての参入です。

リクルートが銀行業へ参入する可能性(3つの視点)

銀行業へ参入するには、「確固たる財務基盤、信頼、銀行業での収益性」が必要と説明しましたが、リクルートがその3点を満たすのか見てみます。

1)確固たる財務基盤と信頼性

冒頭で説明したとおり、リクルートのバランスシートは盤石です。

また、信頼性という点においても、現在40代以上の方にとっては、1988年のリクルート事件のイメージが強烈でしたが、2014年に厳しい審査、監査をくぐり抜け東証一部上場を果たしています。その後も順調に推移していますから、BtoBであれば誰も文句を言う人はいないでしょう。

唯一の懸念は40代以上のC向けの展開でしょうか?単純に銀行業と考えると、40代以上の支持も欠かせません。しかし約30年も前の事件なので懸念するほどでもないのかもしれません。

2)銀行業での収益性(対個人)

確固たる財務基盤と信頼があっても、相乗効果がなく銀行をやる意味がないなら、銀行業参入はあり得ません。そのためリクルートの本業との相乗効果が期待できるのかを考えてみます。

本業との相乗効果の可能性

リクルートの販促メディア事業 BtoC

・SUUMO・・・住宅ローン
・ゼクシィ・・・ブライダルローン
・カーセンサー・・・自動車ローン
・じゃらん、HOT PEPPER Beauty・・・旅行、美容(目的別ローン、フリーローン)

さらに新規事業の教育分野
・スタディサプリ・・・教育ローン

ライフイベント=個人の出費のタイミング=ローンのタイミング

なので、ここまで分かりやすい例もないくらいに相乗効果は間違いないですね。

リクルートは今ままで何もしていなかったのか?

住宅・不動産購入をサポートするサイトのSUUMOに関していうなら、従来は他社の住宅ローンを紹介する形のみをとっていました。

しかし、2015年の7月から「SUUMO提携ローン」ということで、「スルガ銀行の住宅ローン商品」だけ別枠で取り扱う様になりました、従来どおり他社の紹介は残したままで。ただ、リクルートポイントが付く以外は特段目立ったメリットもない商品でした。

しかし、「SUUMO提携ローン」の発表から1年も経たない2016年の4月にスルガ銀行「リクルート支店開設」というプレスリリースが発表されて、この展開の意味がわかります。

これはスルガ銀行とリクルートが金融サービスの展開で業務提携するという内容で、リクルートの住まいサービス(SUUMO)とブライダルサービス(ゼクシィ)でのローン需要に対して、「スルガ銀行リクルート支店(2016年5月にオープン)」が融資をするというものです。

厳密にいうと、今までも「スルガ銀行Dバンク支店」という名称で、SUUMO提携ローンを提供していたので、住宅ローンについてはサービス主体の名称変更です。ですが、リクルートという名称を全面に出したのは意味があると思っていて、個人的には銀行業への一歩前進と捉えています。

※ちなみにスルガ銀行は他社とも提携していて、スルガ銀行ANA支店といったサービスもあります。

3)銀行業での収益性(対法人)

BtoBでの相乗効果の可能性を見てみます。

これはAirレジを中心とした中小企業の支援事業でのシナジー効果が大きいですね。
Airレジで売上から損益状況まで把握できるうえに、会計ソフトと連携した情報を開示してもらえれば財務状況まで把握できます、それだけ分かれば資金ニーズと回収リスクもどこよりも早く分かりますので、スピーディな融資対応が可能です。

中小企業の売上状況をリアルタイムで把握できるのは銀行業をやるうえでは大きなアドバンテージです。

まとめ

リクルートのサービスラインから考えて、銀行業に参入するのは時間の問題、というのが私の見解です。

それでもやらない理由があるとすると、「FinTech(フィンテック)」や「仮想通貨(ビットコイン)」などの市場や規制がまだハッキリ見えないという時期の問題か、銀行業・金融業を広く展開したときに本業のクライアントとバッティングする可能性、のどちらかもしれません。

ここから先は仮説の繋ぎ合わせです。

リクルートカードを始めてみたり、スルガ銀行リクルート支店を開設したりと、金融色が強くなってきています。

上場すると非上場時代よりかは縛りが入るので、大手企業でありながらベンチャーマインドをもつ人材は以前よりかは減っていくでしょう。そうなるとリクルートのお家芸である抜群の人材を高速回転させながらの新規事業の輩出という好循環もピッチが落ちるはずです。

それでも上場したのは、「銀行業参入のための準備段階」という理由もありそうです。表向きは、グローバル展開のための資金集め、という理由ですが。

スルガ銀行リクルート支店はリクルートのテストマーケティングではないのか?という見方もできます。金融庁に銀行業参入を申請し、審査を受ける際に、信頼性と収益性を証明する資料としても使えそうですし。

 

5月頃には、金融とITを融合したサービスの「FinTech(フィンテック)」や「仮想通貨(ビットコイン)」に対応するため、出資規制が緩和される方向での銀行法改正が予定されています。

「リクルート銀行」誕生の日は近いか?

ABOUTこの記事をかいた人


34歳、千葉県生まれ。大学卒業後、税理士法人・財務コンサルティング会社などで10年間勤務の後、独立。現在は中小企業の税務顧問などをしながら、創業100年企業の財務戦略を支援したりと税理士業以外での活動フィールドを拡大中。高城剛は天才だと思う。好きな言葉:一寸先は光。
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